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> ニュース一覧 > 「43歳から始める女一人、アメリカ留学」No.19・・・「よくしゃべる人たち」ウォッチングの効用(ライクス)- 2018.01.03(水) 10:00

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「43歳から始める女一人、アメリカ留学」No.19・・・「よくしゃべる人たち」ウォッチングの効用

ライクス

2018.01.03(水) 10:00

シアトルの夜景。辛いことがあった日には慰められている

 シアトルに来て4ヶ月、未だに、すごいなと思うのは、街のどこかしこで知らない人同士がよくおしゃべりすることだ。

 昨日もそうだった。バスの車内に、ホームレスか一般の人かどちらだろうかと判断に苦しむ身なりの、初老の男性がいた。この彼が体を通路に乗りだして、通路を挟んだ隣の席の若い女性に話しかけていた。身ぶりてぶりで、「そうだろ! だからこうこう、こうで」とおもしろ可笑しく、彼女にアピールしている。

 酔っぱらいか? こんな若い子があやしげなおじさんにつかまっちゃって、誰か介入してあげればいいのに−−。

 と思った瞬間、心配不要だったと気づいた。女の子は、大爆笑。「イヤー、なんとか、なんとかなんとかで」と彼女もノリノリになって、おじさんにやり返していた。10分ほどすると、さらに別の新たなおじさんも加わり、3人のいるあたりは大賑わいになっていた。目的地に着くとおじさんは、じゃあ、とさわやかに降りていった。

 これほど強烈な「話しかけられ」ではなくても、私も、見知らぬ人に声をかけられることが、とてもよくある。

 バス停のベンチに先客がいたので、傍に立って待っていると、「あなた、座る?」と私よりずっと年輩の女性が、席を譲ろうとしてくれた。「もう何分待ってます?」「まだ10分ほどよ」みたいな会話で、しばしひまをつぶすことができる。
 
 街のストレンジャーにとっては、誰とでも気楽に言葉を交わせるこの雰囲気は、ありがたい。一言、「空がキレイね」「そうですね」といった言葉を発するだけでも、気づかぬうちに張りついている緊張の膜に、ふと、穴があくことがある。ああ、大学行きたくないなあ、とさっきまでうつむいていたのに、さあ、行くか、と顔を上げられることがある。

 先日はおもしろいことがあった。夜、友達と、繁華街の小しゃれたレストランで食事をした。友達はシアトルから離れた島に住んでいるので、私と別れると、フェリーに乗って帰って行った。

 次の日、彼女が電話で言うのだ。

 「昨日食べた、アヒルのゆで卵の料理、あれ、アヒルの卵じゃなくて、ニワトリだったんだって」

 聞くと、彼女は帰りのフェリーで、なんと私たちが食事をしたレストランのシェフと、おしゃべりをした。するとそのシェフが、「実はアヒルの卵が切れていたから、普通の卵で作ったんだよ、あれは。アヒルの卵は、もっとコクがあるんだよ」と教えてくれたというのだ。

 「びっくり情報でしょ」

 いや、別に。食べている時から、これ本当にアヒルの卵か、と私は疑っていた。だからそれには驚かない。驚いたのは、フェリーの中でも人々はおしゃべりするのかということ。そしてさっきまで客だった彼女がシェフに出くわすという偶然と、台所事情をぺろっとしゃべってしまうというシェフのユルさに対してだ。

 でもこのユルさ、私はすきだ。必要最小限のことしかしゃべりません、といった雰囲気を醸し出す人で構成される社会より、ユルくて無駄に満ちた行為のあふれている社会の方が、異邦人にはなじみやすくていい。




フリーライター
長田美穂さん(ながた みほ、1967年 - 2015年10月19日 )
1967年奈良県生まれ。東京外国語大学中国語学科を卒業後、新聞記者を経て99年よりフリーに。
『ヒット力』(日経BP社、2002年)のちに文庫 『売れる理由』(小学館文庫、2004年)
『問題少女』(PHP研究所、2006年)
『ガサコ伝説 ――「百恵の時代」の仕掛人』(新潮社、2010年)共著[編集]
『アグネス・ラムのいた時代』(長友健二との共著、中央公論新社、2007年)翻訳[編集]
ケリー・ターナー『がんが自然に治る生き方』(プレジデント社、2014年)脚注[編集]

[電子書籍]
43歳から始める女一人、アメリカ留学 上巻
上巻
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下巻
http://www.dlmarket.jp/product_info.php/products_id/209500

問題少女 第1巻〜最終巻
http://www.dlmarket.jp/product_info.php/products_id/215228


株式会社ライクスより
末期ガンと聞いていましたが、2015年10月19日に亡くなられたことを知りました。
知人の紹介で福島市内で会ったのが出会いでした。とても素直な感じの素敵な女性だったと記憶しています。アメリカに勉強しにいくと聞いでアメリカ通信を書いてというのが「43歳から始める女一人、アメリカ留学」の始まりでした。電子出版を出したいという長田さんの思いは、今の世に少しでも痕跡を残したいとの思いだったのかもしれません。
売り上げは、全て長田さんの仏花とさせていただきます。
ありがとうございました。

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