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> ニュース一覧 > 「43歳から始める女一人、アメリカ留学」No.55・・・ハチャメチャ英語でも、「あなたの記事が早く読みたくてたまらない」と言われた理由(2)(ライクス)- 2018.02.08(木) 10:00

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「43歳から始める女一人、アメリカ留学」No.55・・・ハチャメチャ英語でも、「あなたの記事が早く読みたくてたまらない」と言われた理由(2)

ライクス

2018.02.08(木) 10:00

シアトルに戻ってきた。秋の景色だが、もう気温は0度前後の寒さ

パターン2の人物に会う前に、下準備をする話を前回書いた。準備の内容は、一言でいうと、文献をできるだけ多く読んでおき、メモをつくってまとめておくということ。けれどもこれには、とてつもない労力がいる。

本は、図書館で借りるか、アマゾンで買っておく。宅配便、郵便に日本よりずっと時間がかかるので、かなり早めに本の手配をする必要がある。

記事や論文、ホームページの掲載のPDFファイルは、みなダウンロードしてプリントアウトして読む。目が疲れるので、パソコン画面から直接、読むのは避けている。読むのは紙か、画面でもOKか、については英語力の差というより個人差が大きく出るようだ。授業の前に読んでおけ、と出される課題文書も、ネットから直読みで済ませちゃう、という日本人の学生がいれば、アメリカ人の学者でも「パソコンで読むと、なぜか飛ばし読みができないので、結局、読む速度が落ちる」と言う人はいる。私の場合は、とにかく紙にしないと、集中できない。

そのプリント作業にさえ、量が多いと時間がかかる。新しく買ったブラザーのプリンターは、両面印刷ができるというふれこみはいいものの、紙詰まりが多くて困る。ずっとプリンターに付き添って、詰まれば、ふたを開けて紙を外してやる、の繰り返し。

小言を連ねたが、これらは英語日本語に関わらず、取材の準備につきまとう、いわば準備のための下準備だ。これが終わってからが、本当の準備。辞書を左手に、右手にペンをもってノートをとりながら、とにかく、読む、読む、読む。

目も頭も、痛くなる。知らないことだらけで、不安が募ってくる。でも読み進んでいくと、「あ、これ聞こう」と質問が思い浮かんでくる瞬間があるものだし、なるほど、こんな背景があったのかと膝を打つ発見がある。見知らぬアメリカ人のたむろするシアトルのカフェで、1人、小さな興奮に身を震わせるのは、私の人生をアルバムにした時、悪くない一カットだろうなと思う。

そんな作業を経た上で、夜までには質問をまとめ、ノートを閉じる。明日の待ち合わせ場所とバスの時刻表の確認をして、ICレコーダやカメラの電池などを充電しておいて、夜は早めに寝る。

大取材デー前夜も、そうして過ごしたのだった。

さていざ、翌朝、約束のスタバに出かけていくと、手招きするちょっとクセのありそうなインテリ女性と目があった。この人は、ワシントン州知事に任命されたオンブズマンチームのトップ。児童福祉行政を監視する専門オンブズマンは全米でも珍しく、この世界では大変有名な人物だ。

朝から満員のスタバで、小さなテーブルを囲んでICレコーダーをオンにする。話の内容は、どこかに書くからここでは省略するが、「あなたの記事、早く読みたくてたまらないわ」と途中で感服したように言ってくれたのは、彼女だった。

その言葉が出た時の状況は、こうだった。

彼女のキャリアの略歴、オンブズマン制度の立ち上げの経緯、最近の傾向などを聞いたあと、私は、彼女らオンブズマンチームの15年の歴史の中について、私が思う「意義のある改革」をいくつか挙げた。

年表を作っていたので、何年に何があったか、具体的に数字で覚えていた。「2003年は、この分野に、何とかという実証的手法を使ったリスクアセスメントを取り入れましたよね。これはその後、どんな影響をもたらしましたか」といったことを、聞いた。日本語で書くと、ちゃんと話しているように見えるが、主語と目的語が逆になっているような、ハチャメチャ片言英語で、である。

すると、彼女はスタバの椅子にそっくり返って、5秒くらい、黙りこんだ。意味が伝わらなかったのかな、と私は思った。一呼吸おいてふたたび前屈みの姿勢に戻った彼女は、言った。「あなた、私より、私たちのことを知ってる」

彼女はこう続けた。「私は渦中にいるから、いつも次になにをするか、来年何をするか、とちょっと先のことしか考えたことがなかったの。でも今、そう聞かれて、そうだ、2003年にあれを取り入れた時には、まだだれもあの手法について知らない時期だったから、大変だったのんだ、と思い出した。今でこそ、当たり前にみんな知っている手法だけど。あなたは、森の外から私たちの活動を見てくれている。そう聞かれて、私は今、歴史的な視点で自分の仕事を捉え治したらどうなるか、アイデアをもらったわ」

そして、「あなたの記事が早く読みたくてたまらないわ」と言ってくれたのだった。

私のしたことは、単純だ。ただ、よく調べていっただけ。でもそれが、取材を受けてくれる人の心を開くカギだということは、日本で重々体得していた。要は、アメリカでも同じこと。英語がめちゃくちゃでも、「いいたいこと」が通じれば、相手の心を開くことはできるのだな、と知った。彼女はいろいろ話してくれた上で、何かあったら連絡して、とメールアドレスを教えてくれて(これまでは秘書経由だった)、去っていった。

夜の取材も、うまく行った。相手は現役の検事。捜査用語もおぼつかない上に、こんな英語じゃ相手にもされないんじゃないかと心配していたが、核心については本音をさらけ出してくれた。

「朝、妻には、日本とはいえ相手はジャーナリストでしょ。あまり話さない方がいい、と諭されていたんだけど、キミと話すのは楽しかった」と喜んでさえくれたのだった。

決して、「片言英語だって大丈夫」と言いたいのではない。人間関係構築の基本は、取材であれ、商談であれ、プライベートな人間関係であれ、たぶん同じことだろう。相手を知る。英語だと、それに時間がかかるが、逆にいえば、時間さえかければ何とかなると分かった。取材デーの、大きな収穫となった。




フリーライター
長田美穂さん(ながた みほ、1967年 - 2015年10月19日 )
1967年奈良県生まれ。東京外国語大学中国語学科を卒業後、新聞記者を経て99年よりフリーに。
『ヒット力』(日経BP社、2002年)のちに文庫 『売れる理由』(小学館文庫、2004年)
『問題少女』(PHP研究所、2006年)
『ガサコ伝説 ――「百恵の時代」の仕掛人』(新潮社、2010年)共著[編集]
『アグネス・ラムのいた時代』(長友健二との共著、中央公論新社、2007年)翻訳[編集]
ケリー・ターナー『がんが自然に治る生き方』(プレジデント社、2014年)脚注[編集]

[電子書籍]
43歳から始める女一人、アメリカ留学 上巻
上巻
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下巻
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問題少女 第1巻〜最終巻
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株式会社ライクスより
末期ガンと聞いていましたが、2015年10月19日に亡くなられたことを知りました。
知人の紹介で福島市内で会ったのが出会いでした。とても素直な感じの素敵な女性だったと記憶しています。アメリカに勉強しにいくと聞いでアメリカ通信を書いてというのが「43歳から始める女一人、アメリカ留学」の始まりでした。電子出版を出したいという長田さんの思いは、今の世に少しでも痕跡を残したいとの思いだったのかもしれません。
売り上げは、全て長田さんの仏花とさせていただきます。
ありがとうございました。

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